2011/08/29
オグラの’91年式のGTIは、スモールバンパー化によってより古めかしくなった。ちょっとヤングクラシックスっぽくなって、オグラとしてはチト嬉しかった。で、なかなかいい感じではないかと思いつつも、その一方で気になってきたのは、エンジンがもうひとつ元気ではないことだった。

よく吹け上がるエンジンではあった。
しかし、回転上昇に伴うトルク感、パワー感の盛り上がりがないままに、レッドゾーンに達してしまうのだ。 このエンジン、いまは店を閉めてしまった茨木ラインハートの吉本さんがヘッドだけはオーバーホールしていた。だが、どうやらピストンリングの摩耗が進んでいたらしく、トルク、パワーともに、本来のPL型が持つそれには及ばない感じだった。

 
 
エンジンをより距離の少ないものに替えられないかと考え始めたのは、フュエルポンプを交換してくれたスピニングの中西さん(てっちゃん)が、作業後の試乗の感想としてこういったからだ。

「なんか、力ないッスね。 逃げてますね」

ウウ。 分かってはいたけど、黙っていた部分を突かれてしまうと、正直ツライ。

朗報が入ってきたのは、昨年の11月。 スピニングガレージでGTIの解体車両が出るとのことで、そのエンジンやミッションをもらい受け、黒のGTIに換装することになったのだ。 ドナーとなったクルマまだ走行11万㎞。 スピニングのスタッフによれば、「エンジンはまだまだ生きてますよ」とのこと。 オグラはもちろん、「ラッキー!」と大喜びだ。

作業を担当してくれたのは、小磯さんである。 この人、寡黙。 実に物静かな人で、スピニングの工場を訪ねてもなにかの作業をやっていない限り、すぐにいるかどうかは分からない。 まるで忍者のように気配を消して、自身のパソコンの前に座っていることが多い。 スピニングのサイトによれば、元プログラマーとのことで、なんでまたメカニックになっちゃったんだろうと、疑問を湧かせる人。

まず、さすが元プログラマーだなと思わせたのは、作業前の問診が丁寧で、コチラの意図を汲み取ろうとしてくれる点。オグラは、黒のGTIの走行距離がそろそろ25万㎞に達しそうだったので、「次のオーナーのために、30万㎞達成に向けて、5万㎞は悠々走れるように」というコンセプト(?)を伝えたが、小磯さんはそれをちゃんとメモに取る。こんな無茶ぶりでも、少なくとも考えるフリをしてくれるのだ。クライアントの意向がどのようなものであるかを知るのは、プログラマーにとって非常に重要なはずで、小磯さんにはそのあたりが自然に身についている。オグラはなるほどと思った。

なんだかんだとあって、解体車からエンジンおよびミッションを降ろしたのは年末になってからだ。 小磯さんの場合、エンジンを抜く作業は、基本的にエンジンを下に落とす手法を採る。 エンジンをエンジンハンガーでつり上げておいて、エンジン下のサブフレームを落とし、ミッションをエンジンから切り離して、それからエンジンを下に落とすというやり方。 サブフレームを外すのを嫌って、エンジン、ミッションごとをつり上げて抜くという手法を採る人もいるが、小磯さんは面倒な方を選んでいる。

翌日には外したエンジンのメンテンス作業に入る。 このエンジン、全体に状態は悪くなかったものの、タペットカバーパッキンからのオイル漏れ、それに冷却系では、エンジンからホースへのジョイント部分から水漏れ跡が発見されていて、それならエンジンが外れているうちに修理してしまおうということ。 スピニングにはこの辺りの部品は常に在庫されているから、すぐに作業に入れる。 もうひとついっておくと、ただただエンジンを載せ替えてしまうわけではないのだ。

作業中、邪魔にならない程度に小磯さんに話しかけると、色んなことが分かってきた。 まず驚いたのは、小磯さん、その昔は、シボレーのアストロに乗っていたということ。 アメ車だ! スピニングの田中さんとのつきあいは、大学時代に町田にあったデイトナパークでアルバイトをしてからという。
もうかれこれ20年ほど前の話。 バイト仲間だったわけだ。 現状からとても想像できないが、田中さんも小磯さんも、若い一時期は“アメリカかぶれ”だった?

プログラマーという職業を投げ打って、田中さんに誘われるままメカニックという仕事についたのはーー。

「プログラマ-ってね、クライアントにできあがったデータを渡して、それで終わりなんです。 でも、メカは違います。 作業が終わってクルマを渡す時とか、お客さんの反応、喜ぶ顔を直接見ることができるじゃないですか。 これは大事ですよ」

オグラはなんだか分からないが、小磯さん、カッコイイ! とか思ってしまったのである。

作業そのものも、当然だが、段取りのよさが際立つ。 後日のエンジン搭載作業も、元プログラマ-という特性は遺憾なく発揮されて、すべてに無理無駄がなく、スムーズに流れていった。

小磯さんの作業でオグラが最も感じ入ったのは、その手つきの、なんというか優しさだ。 ボルト1本、ナット1個を回すにも、まずは指で回す。 ちゃんと回っていくことを確認して、そこで初めて工具を使う。 だから、なめるとか、かじってしまうとかのミスがない。 その指の動きは繊細というか、もっとあからさまにいうと、ひどくHな感覚がするのである。 イヤラシイ。

余計なことを書いてしまったかもしれないが、今回作業を見せてもらったことで、小磯さんがなぜ、スピニングガレージのなかのチューニング部門、あるいは研究開発部門のチーフ的な立場にあるかは、よーく分かったような気がした。

黒のGTIに解体車からのエンジン、ミッションが換装されて、エキゾースト系など周辺のパーツの組み付けも終わって、走行が可能になったのは、今年に入ってからだ。 解体車が比較的よくノーマルの状態が保たれていて、たとえば、エキゾーストパイプ、マフラー類が純正のままであったことから、これを外してもらい、黒のGTIに装着してもらった。 もし、このクルマをヤングクラシックス的な捉え方をするなら、なるべくオリジナルを保ったほうがベターと考えていたからだ。

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