FGX 第6回

2010/03/05
実をいうと、全塗装に出す前から問題になっていたことがあった。 それは、GX型だけの、リアホイールアーチの前側に装着される細身のストーンガード。 これも、GX型らしさをアピールするうえで重要なパーツ。 しかし、プロジェクトのスタート時点ですでに、スピニングでも部品がないとされていた。 このため、全塗装時にその取り付け穴を塞いでしまい、塗装が上がってきたら、そこにカッティングシートかなにかでそれらしく仕上げようということになっていた。 アイアールサービスにはそう頼んで、実際その通りに仕上がってきたのだ。 ところが……。
さて、外観仕上げの当日。 スペシャルヘルパー、安達さんは、まずサイドのプロテクションモールに両面テープをつけ、ボディへの貼り付けを準備する。 とりあえず接着力が弱めの両面テープを使ったのは、このFGXの最終形をサイドプロテクションモール付きとするかしないかを検討するためだ。 右側には付けて、左側は付けない。 左右を見比べてみて、よりGX型らしいのはどちらか、判断しようというわけだ。
で、ここでオグラが驚いたのは、スピニングにもないとされていたストーンガードがちゃんと用意されていたことだ。 それも、左右揃って。 ただし、取り付け穴に差し込むピンが折れているから、ピン留めは不可。 FGXの場合、それは前述の理由で逆に好都合ではあったが。
聞けば、これには、長い長い物語があるようだ。 このストーンガードがあるのを思い出し、倉庫を探しまくって見つけ出したのは、スピニングのセールス担当、平林さんだったという。 そして、「これはFGXのために取っておく」と、どこかに仕舞ったそうだ。 そこまではエライ。 だけど、平林さん、外観仕上げの予定日前日になったら、どこに仕舞ったかをまったく思い出せなかった。 トホホ…。 結局、平林さんに見つけた時の状況、およびその後の行動を聞き出し、どのあたりにあるかの見当をつけ、見つけ出したのは、店長、田中さんだったそうだ。 まるで、プロファイリングのような……。
ま、そんなこともあって、ようやく完成したのが、ご覧の通りの外観だ。
ライトブルーのボディカラーはもとより、安達さんが、よりGX型に似合うと探してきてくれた13インチのスチールホイールもあって、’80年代前半の雰囲気が色濃く漂う。 「よくぞ、ここまで」と、オグラが感激の涙を流した、というのはウソだが、かなりの達成感を覚えたのは確かだ。
外観が仕上がれば、次は内装である。 ご存知のように、大方はすでにGX型のものに取り替えてある。 残るは天井、天張りなのである。
この’88ゴルフの天井は、結構くたびれていた。 塩ビの表皮が縮んでしまい、端っこ部分が垂れ下がっていたほか、サンルーフの部分は水漏れの跡。 後半部は、一度修理した形跡があって、その時の接着剤が表皮に染み出していたり、ガムテープの跡もあったりして、率直にいえば、かなり悲惨。 これはどうしたって修理しなくてはならないと考えていた。 スピニングが内張の修理を依頼しているのは、アップサービスカンパニーというところ。 代表の小川玄(まこと)さんは、この道十数年というベテランだ。 インテリア関連の事務所に務めていたそうだが、「クルマの内装が好きで好きで」(本人の弁)、自動車内装修理業界に飛び込んだという。 もちろん、そこは職人の世界。 師匠について、その作業の一から十までを盗んだ(学んだ)そうだ。
小川さんの作業は、サンバイザーやアシストグリップ、ピラーカバーなど、天張りを留めているものを外すことから始まった。 自ら外し作業を行なうのは、それによって、実際に必要な取り付け穴とか窪みが確認できるからという。 その手際は、ゴルフ2の内張修理に熟練していることを伺わせるものだった。 迷うことなく、淡々と進め、淀む気配がまったくない。 なんだか、小川さん、カッコイイのである。
ところで、ゴルフ2の天張りが剥がれ落ちてくる理由だが、小川さんによると、第一には、表皮が塩ビで、経年に伴い縮んでしまうことが挙げられるという。 第二には、表皮下のウレタンが、いわゆる加水分解によってボロボロになってしまうこと。 高温多湿という日本の気候条件下では、室内の湿度はヨーロッパよりはかなり高めになると予想され、加水分解がどうしても促進されてしまうようだ。 したがって、2のオーナーは、この天張り剥がれは仕方ないものと諦めたほうがよさそう。
ザクッと作業手順をお伝えするとーー。
外した天井は、表皮の塩ビが剥がされ、基盤というか、薄い発泡ウレタンの構造材側に残るウレタンは、タワシできれいに落とされる。 構造材は一部分、割れていたが、これはテープで繋ぐ。 応力がかかる部分ではなく、新しい表皮がかぶせられることもあって、これ以上はやってもムダということになる。 そして、表皮の裏側と、この構造材側の両方に、特殊な接着剤をエアガンで塗布し、新しいウレタン表皮(シート)を構造材側にかぶしていく。 それから手のひらでなぞって圧着させ、しばらくおいて、余った部分をハサミで切り落とし、今度は折り返し部分を丁寧に接着させていく。 これで張り替え作業自体は完了する。 後は、クルマに戻す作業を残すのみだ。
天井を直してみて分かったことは、これが意外と気分に影響するということだ。 天井がめくれていたり、剥がれ落ちていたりすると、なんとなく気分が滅入る。 今回のようにシャキッとさせると、気分もスッキリ。 天井なんてそう意識してみるものではないが、なにか問題があると、その重要性が分かってくるというのが面白い。 小川さん、感謝です。
次回は、おそらく最終回になると思われる。 車検整備他の細かいところをやって、FGXとしての完成度を高める予定だ。
小倉正樹