2010/07/09
7月はじめの梅雨の最中、完成なったFGXを試乗に連れ出した。
と、何事もなかったように書き出したが、実は前回からここに至るまで、また色々な出来事があった。 GX純正型マフラーを装着して、一応の完成を見たFGXなのだが、その後ラジエターからの水漏れが発見され、さらにはブレーキペダルが踏んだら戻ってこないというトラブルにも見舞われた。 このため、試乗を兼ね、6月20日に筑波サーキットで開催されるゴルフカップでお披露目という目論見はもろくも崩れ、結果的に7月までずれ込んだというわけだ。

まぁしかし、これぐらいのトラブルは織り込み済み。 FGXのベースになったクルマは、ゴルフ2のヒストリーのなかでは中期モデルと呼ばれる、’88年式。 新車登録から20年以上が経過していて、しかもここ数年は放置されていたものだ。 なにがあってもおかしくない。 しかし、それを乗り越えてこそ、このプロジェクトのひとつのテーマである、「ゴルフ2という名車を、1台でも多く残していく」が実践できることになる。 なにを隠そう、このテーマは、スピニングガレージの、いわば社是でもあるのだ。

その最後の、ブレーキペダルが戻ってこないというトラブルは、小磯メカニックが解消してくれた。 当初は、マスターシリンダーが原因かと思われていたのだが、実際には、ブレーキペダル支点の軸が錆ついていたためだった。 その錆のストッピングパワーがリターンスプリングの力よりも大きかったため、ペダルが戻ってこなかったのだ。 このクルマ、フロアが水浸しになっていた時期もあったようで、その時の湿気がペダルの軸に錆を発生させた模様。 小磯メカ、ペダルのセットを外して分解、軸を取り出して錆落とし。 簡単に説明しているが、これがステアリングシャフトも落とさなければならない大工事であることは、念のためお伝えしておく。 小磯さん、定休日の水曜日だというのに、ジットリとした暑さの午後いっぱい、この作業をやってくれた。 感謝!

こうして、無事、スピニングを出発したFGXは、無料化社会実験の対象となった八王子バイパスを抜け、八王子インターから中央高速を都心に向かった。 オグラは、顔がほころんでいた。 ようやく念願が叶ったのだ。

FGXのエンジン(RV型)は、まだ眠りから覚めたばかりといった渋さが感じられるものの、ノーマルよりも軽い吹け上がりを示していた。 プラグやコード、デスビなどの電装系は交換してあるし、エンジンオイルとエレメントも交換しているから、なんの気兼ねもなくアクセルを踏める。 このクルマを保管していた埼玉・日高のスタイマーによれば、かつてヘッドのポート研磨をやっているとのことで、この吹け上がりのよさも分かるような気がする。 ただし、エアコンをかけた状態でのアイドリングから軽くアクセルを踏み込むと、エンジンがストールしてしまうこともあって、全体に調子はまだまだ。 走り込んでいけば、やがて馴染んでくるという気配が濃厚で、今後に期待というところ。

その乗り心地は、考え方で評価が変わりそうな微妙さがある。 ご存知のように、FGXのサスペンションは、ザックス・スポーティングのユーズドに交換してある。 これが、13インチのタイヤ&ホイールとのマッチングがもうひとつのように思えたのだ。
新品のピレリP4の当たり自体はソフトなのだが、ショック&スプリングの減衰がそれにシンクロせず、シットリとした乗り味となっていない。 100㎞/hぐらいの速度になると、旧いスチールホイールのブレも加わるようで、微震動も感じられる。 このあたりも、走り込むにしたがって馴染んでくるものと思われるが……。

それにしても、この雰囲気のよさはなんだろう。 ステアリングホイールは細いグリップを持つ2本スポークで、オーディオは選曲ボタンを指でグッと押し込む旧いタイプ。 シフトノブのトップは、5速がエコノミーの頭文字、Eとなるデザイン。 センターコンソールにパワーウインドーのスイッチはない。 ウインドーの開閉はドアに付くハンドルで行なうのだ。 ドアポケットは、実用的とは思えない幅がないタイプ。 そして、なにより三角窓があるのだ!

撮影を進めていけば、GX型の佇まいのよさがますます好ましくなってくる。 フロントグリルは細いバー(ブレード)を6本持つもので、もちろん2灯。 バンパーはいわゆるスモールバンパーの、クロームっぽいモールが入るタイプ。 ボディサイドにプロテクションモールはなく、あるのはリアホイールアーチ前の細いストーンガードのみ。 そして、繰り返すが、なにより三角窓があるのだ!

ボディカラーをライトブルー、いや水色(この表現のほうがGX型に似合う)にしたのは、大正解だった。 ゴルフ2には暗色系が多いだけに、水色ということだけでも目立つし、最近ではあまり設定されないカラーということもあって、存在感が際立つ。 これはいい。 本当にいい。

運転していて気づくのは、なんというか周囲の目の、視線の温かさだ。 信号で止まれば、明るいボディカラーに惹かれるのか、それとも四角いボディに丸い目のかわいらしさに惹かれるのか、女性陣が優しげな視線。 対向車線を走ってきたクラシック・ミニのドライバーは、ピカピカに光っているゴルフ2に、「オッ、この手もありかな」という視線を送る。 高速道路で遭遇したゴルフ2のドライバーは、まず三角窓付のGX型が元気に走っていることにビックリした様子。 次にボディの程度のよさ、つまり塗装がきれいなことに驚いて、抜くのをやめて、後ろについたり、横についたり。 しばらく観察してから走り去っていったが、きっとこのドライバーはGX型の価値が分かる人だったに違いない。

なんというか、FGXに乗っていると、とても気分がいい。 心落ち着く、穏やかな世界に浸っている自分を発見することになるのだ。

正直にいえば、オグラとしては、まだこのFGXにはやり残したことがあるような気がしている。 前後のシートはアプト仕様ではなく、ごくごく普通のものにしたいし、オートアンテナはメッキタイプにしたい。 サスペンションをザックス・スポーティングのままとするなら、14インチのタイヤ&ホイール(できればアルミ)を装着したほうがよさそうだし、もし、13インチのタイヤ&ホイールをそのままにするなら、サスペンションをノーマルに戻したほうがよさそうだ。 オグラとしては、後者を選択したいが……。

しかし、スピニングガレージがこのFGXプロジェクトに掛けた時間、コストを考えると、もうこれ以上のお願いはムリ。 もともと、スピニングのサポートがなければ、このFGXプロジェクトは実現不可能。 夢にとどまっていたはずだ。 よくもまあ、オグラのワガママに付き合ってくれたものだと思う。

 
 
 
 
 
最後にーー。

オグラがこのFGXプロジェクトでお伝えしたかったのは、ゴルフ2の楽しみ方は色々あるということだ。 もうゴルフ2がオリジナルを大切にしたほうがよいくらいのクラシックカーになってきたことも確かだが、ミニのように、自分なりのカスタマイズを楽しむための素材という考え方もまだまだ成立する。
 
 

今回のプロジェクトは、「GX型のクラシックな佇まいを気軽に楽しむ」というコンセプトで進めたきたわけだが、その過程で、思うがままにクルマを仕立てていくという、まるで1分の1モデルを作るような面白さ、楽しさも感じてもらえたと思う。 それこそが重要なポイントなのである。 別にフェイクである必要もない。 プチレストアと考えてもらってもいい。 要は、どのような形でもいいから、ゴルフ2を楽しんで欲しいのである。

小倉正樹

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